特集:増税に反対する《下》

2006.06.28
担当:tr

(前回までのまとめ)
1.増税ロジックのウソを正す
  @日本の国民負担率は決して低くない
  A日本の社会保障還元率は低い
  B消費税率の高い国では、税の逆進性に対する配慮がある
  C日本は高額所得者への所得税課税は甘いが、中低所得者への
   課税は決して甘くない
2.租税が持つ富の再配分機能
  @課税強化対象が、取り易い人、一票への影響が少ない人を標
   的とするのは国の行く末を歪める
  A現行の富の再配分で潤っているのは、農村、土建業者、ゼロ
   金利の恩恵を受ける人々である

  B富者の優遇は経済の循環への寄与が低い

(ここから今回)

5.財政再建への提案
 増税に反対とは言うものの、国家財政が破綻に瀕しているという現実は認識
しないわけにはいきません。
 消費税は、『逆進性に配慮した制度改革』を前提として、ある程度の税率ア
ップは必要でしょう。それ以前に、富者への課税強化は絶対必要でしょうが、
それでも追いつかない部分は歳出の削減で対応しなければならないわけです。
 歳出削減には2つの大きな方向性があります。
 ○事業の削減
 ○コストダウン
です。
 事業の削減については、理念に基づく政治判断事項ですから、いずれ機会が
あったら論ずることとして、理念にかかわらずだれでも異議がないのは『コス
トダウン』でしょう。
 また、コストダウン体質に転換せずに、ジャブジャブのままで事業の削減を
しても、行政サービスの質や量が低下するだけです。
 省庁再編や人員削減などを縦割りの自己申告で実施しても少しもコストダウ
ンにならなかったところを見ると、『全体の数字の削減目標』を突き付けない
限り、行政の側には自浄作用はないようです。
 以下にトップ(主権者たる国民)ダウンによる削減目標数値の算出を行って
みたいと思います。

まず、特別会計の全体を再掲してみます。
(平成16年度数字、単位:百万円)


















この表の合計から、まず地方交付税関連を一旦除くと、
2422,698億円が残ります。
次にこの数字を、人に渡さなければいけないお金と、行政の経費に分けます。
《人に渡さなければいけないお金》
国債の債務償還費:  
1548,893億円
年金関係の年金給付費:
36 482億円
労働関係の保険給付費: 
3713億円
    計     約
194   9億円
→行政コスト(差し引き)
482,610億円

 さてコストダウン努力といえば、バブル崩壊以後の民間企業では、とてつも
ない努力が行われました。その実態を体験した多くの人からみれば、自分が接
したり、聞いたり、時々事件になって報道されたりする行政の現状がジャブジ
ャブであることは間違いありません。
 民間と同じようにコストダウン努力すれば、控え目に見積もっても今の行政
コストは
20%は削減できるでしょう。
 ここで、
482,610億円×20%=96,522億円@
がコストダウン可能です。
 では《人に渡さなければいけないお金》はどうでしょう。一見これはもうい
じれない数字のような気がしますが、給付手続きのミスによる過払いや、国債
の過発行などからすると、冗長がここにも存在するのは間違いありません。
 控え目に
2%だけの削減目標にしてあげるとしても、
 ここで、1949億円×
2%=38,800億円A

 最後に、最初に除外した地方交付税関連ですが、《上》の巻でご案内したよ
うに、地方会計の合計は約
84兆円です。そして、ここには先ほど《人に渡さ
なければいけないお金》として抽出した国債償還費も年金給付費も保険給付費
もありませんから、
100%行政コストと言ってもいいところですが、それでは
酷ですから、
3/4だけ行政コストと見なすことにしましょう。ましてや、自治体
のコストダウン意識は中央よりもっと希薄であるところは、時々目撃してびっ
くりするところでもありますが、ここもおまけして、削減目標はやはり
20%と
しましょう。
 そうすると、ここでのコストダウンは、
 84兆円×3/4×20%=126,000億円B

@とA、Bを合計して、261,322億円のコストダウンは控え目に見ても十分
可能です。


 絵に描いた餅? 例えば人件費などは、定型業務の多い行政の仕事では、元
職員や経験者のパートタイマー、ワークシェアリングを導入すれば
1/3は削減
できるはずです。それができないのは、人員削減を自己申告させるからです。
それでは本気でコストダウンになるはずもなく、天下り先の特殊法人が潤うよ
うになるだけです。

 皆さん、増税を云々するのは、まず
26兆円のコストダウンが軌道に乗ってか
らにしてもらおうではありませんか。

《エピローグ》
 この特集は、最初の目算よりもとても長いものになってしまいました。それ
はちょっと調べると次から次へと疑問が広がっていくところに起因していまし
た。事実を追いかけようとすればこの広がりにある程度追随せざるを得なかっ
たわけです。
 最後に事実の追求を通じて得た所感を述べたいと思います。

 今回はっきりしたことは、『○○勘定』『○○会計』間のお金の受け入れと
繰り入れが何回も繰り返される一種の
マネーロンダリングがそこにある、とい
うことです。
 マネーロンダリングと言えば、『官の人件費削減』と言いながら、官を辞し
た人が特殊法人に天下り、そこへの発注や補助金が増える、というのも一種の
マネーロンダリングですね。しかもそのロンダリングのために余計な経費が嵩
むことになる。
 そんな実態を覗くと吐き気さえ覚えました。

 このマネーロンダリングの仕組みは決して難解なものではありません。ただ
三重・四重と重なるので追いかけるのに手間がかかる、また定量的には少し不
正確になっていく、というだけです。野党やマスコミには、税金無駄遣いの構
造を包括的に解明してほしいものだと思います。

 『
26兆円のコストダウンが可能』のという場合の、26兆円という金額に確信
があるわけではありません。しかし、企業社会が過去
20年あまりの間に体験し
た経費削減物語からすれば、官が今自己申告している分の何倍かのコストダウ
ンは絶対可能だと確信します。
 それを示す事例は枚挙に暇がありません。例えば、医療費。次のような私の
実体験を紹介しましょう。
 私はある慢性疾患で薬を服用している身なのですが、この間お医者さんの処
方箋を持って薬局に行きましたら、『ジェネリックにしますか』と聞かれまし
た。ジェネリックとはある薬の特許期限が切れた後に出てくる後発医薬品のこ
とですね。日本ではジェネリックの使用率が低いという指摘があって、医療費
抑制のため積極的な使用が課題となっています。
 で、この問いを発するのは課題解決に沿った行為と言えるのですが、そこで
私が『同じように効きますか』と聞いたところの薬局の答えは『全く同じ成分
構成ではないのでなんとも言えませんね』でした。これって、『患者に聞け』
と言われているので一応は『ジェネリックはいかが』と聞くけれど、本当は高
い薬を売りたい、というのが見え見えですね。
 こんな掛け声倒れの経費削減項目をいくら並べても医療費抑制の実効は上が
らない。医療費の現状もジャブジャブというのがこの小さな例からも分るので
はないでしょうか。
 また、年金生活者の医療費自己負担も増やそう、としているのに、開業医の
皆さんのほどんとはとってもお金持ち、(その一方で看護師さんの給料は安過
ぎるのですが)という現実もあります。まあ、制度改革はコストダウンのあと
で、がこの稿の姿勢ですが。

 『まずトータル
26兆円のコストダウン、○○勘定も△△会計もクソもない』
というトップ(すなわち国民)ダウンがなければ財政再建は進みません。

 『国民全体で痛みを分かち合う』で始まった小泉内閣の『国民』には政治家
や官僚は入っていなかったようです。『骨太の改革』は、骨太な官僚機構には
逆らわずに、という意味だったようです。だから歳出削減と言えば、事業を止
めたり『民でできる事は民へ』投げたりしています。
 負担を増やしたり事業を削減する前に、まずコストダウンすることでしょう。
コストダウン意識が無ければ、負担増とサービス減は延々と続くことになるに
決まっています。
 ここは皆さん、会社員特有の『心得顔の物分りの良さ』を捨てて、はっきり
と『増税に反対』すべきときではないでしょうか。

 負担増・事業削減について付言しますと、このごろの政治手法として、有識
者に諮問し、その提言に沿って意思決定する、ということが行なわれています。
ですから今般の増税もそれを支持する学者さん達がいるわけです。それぞれの
専門分野では、彼らを論破することは並大抵のことではないでしょう。そんな
議論をしている間にもどんどん借金は増えていくのです。

 この稿を書いている折も折の
2006626日、OECDは対日経済審査会
合で『国際比較で見ると、日本はもはや平等な国ではない』との指摘をまとめ
ました。
720日に公表する対日経済審査報告で詳細が明らかになることと思
います。
 これに対して、日本政府は『データが古い』『所得格差が大きい高齢層の比
率が上がっているためだ』などの反論をしているそうです。
(日本経済新聞
2006/6/27夕刊)
 以前にも、OECDが
20053月に公表したワーキング・ペーパーで、日本
の所得格差指数(ジニ係数)はOECD27ヶ国中の平均値を超え、順位では第
10
位、相対的貧困度の高さでは、メキシコ、アメリカに次いで堂々3位となっ
ていました。(OECD Social,Employment and Migration Working Paper 22. http.//www.oecd.org/els/workingpapers)


 『所得格差のどこが悪い』というアメリカ型社会を国民が意識的に選択する
のなら、何をか言わんやですが、そんなつもりはないのに着々とそれが進行し
ているという現実から目をそらすのは、きっとあとでとんでもないしっぺ返し
に会うと思います。


この記事にお便りを。



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@国債整理基金 169,853,847
A地方交付税関連 20,307,771
B農林水産関連 1,825,724
C国土交通関連 6,973,996
D医療保険関連 8,745,601
E年金関連 41,874,862
F労働保険関連 4,246,930
G福祉関連 470,474
Hその他 8,278,332
262,577,538