特集:格差社会《下》

2007.07.14
担当:tr

 上の巻で貧困度、中の巻で所得格差、雇用格差、職業格差と書き進んできました。本日が最終回です。
 前回をまとめます。
○若年層と高齢層において所得格差が広がっている
○税・社会保障費による所得の再分配効果は、欧州諸国に比べ我が国では
 あまり機能していない
○非正規社員から正規社員への転職が困難、など雇用関係の流動性の低
 い我が国で、派遣社員の増加による雇用格差が固定的になりつつある
○地縁・血縁・人脈・金の力の差という見え難いファクターによる職業格差は
 厳然と存在する

6.地域格差
 いきなり結論を申しますが、日本に地域格差(大きくて固定的な差)があるのは当たり前です。
 江戸時代、260〜270の大名が日本中に散らばって独立採算の藩を経営していました。 江戸は将軍お膝元、大阪は天下の台所、という2大都市圏はあっても、それぞれの地方には独自の文化と価値観があったのです。
 明治政府は、欧米列強に追い付くため『富国強兵』を旗印に強力な中央集権国家の建設を始め、太平洋戦争に向かって東京一極集中を強めていきました。そして、戦後、富国強兵は『富国』となっただけで、東京一極集中はさらに進み、世界に類を見ない一極集中都市を現出するに至りました。
 とにかく東京は全ての中心なんです。先進国の中では、フランスがパリ一極集中の国ではありますが、パリとても生産機能や貿易機能の中心ではありません。

 かなり端折りましたが、東京に全ての中心があり、大阪にサブの中心があり、その他の地方には、工場と第一次産業と観光しかない、これで地域格差が生じない方がおかしい、と言えるでしょう。そして今、この地域格差は、さらに拡大しようとしています。その様子を県民所得の推移で見ます。
 下図は、1996年から2004年の県民所得の上位5都県と下位5県の数値を加重平均し、それぞれの1996年を100として指数化したものです。

内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部
『平成16年度の県民経済計算について』の数値を基に筆者が計算・グラフ化

 また
別紙1に各都道府県の県民所得実数の推移を表にしました。

 さて、上図を見ると、上位と下位はほぼ同じ動きで推移していたものが、2002年以降乖離(差が拡大)しているのがお分かりになると思います。ちなみに、乖離前の上位と下位の差は1.5倍台でした。
 上図は最近の数字だけですが、この差をもう少し長い目で見ますと、1975年ころから1.5倍台で推移し始め、バブル期に一度1.7倍台に拡大したものがその後沈静化し2001年には1.55倍まで沈静化していたものです。
 では、なぜ1.5倍台の格差があり、それがさらに拡大しようとしているのでしょうか。その足跡を工場・第一次産業・観光のそれぞれについて概観してみましょう。

6-1 工場誘致
 生産機能まで一極集中ではたまらん、ということで進められたのが工場の地方分散で、1972年には『工場再配置促進法』なる法律が成立しています。この間の工場立地件数の推移は下図のようになっています。


 この法律が成立したのち、地方分散がある程度進んだことが読み取れます。しかしながら、バブルをピークとして立地数は急激に減少し、これが地方財政を逼迫させる一因になりました。この点はあまり話題になっていませんが、中央行政が補助金を出して奨励し、地方行政もその気になって造成した工業団地の多くが未分譲のまま今日に残っているのです。
 全国にどの位のデッドストックがあるのか、いろいろなところに散らばっていますがネタはあるので、集計は可能ですが、とてつもない作業量になるのでここではサボらせてください。あくまで一例を申しあげますと、次のようなものがあります。
                                (平成13年度末現在)
団地名 むつ小川原 苫小牧東部 苫小牧西部 石狩湾新港
用地面積 2,800ha 5,500ha 1,578ha 876ha
既分譲面積 1,165ha 943ha 1,377ha 462ha
既分譲率 41.6% 17.1% 87.3% 52.7%
出所:経済産業省平成15年度事前評価書『大規模工業基地活性化』

 こんなデッドストックができる原因を一言で言えば『ニーズ無視』。工場立地として魅力のないようなところまで、実弾(補助金)攻撃で造成させたことでしょう。
 また、生産機能の海外移転、工場操業の省人化の流れも読めませんでした。地方行政にとって雇用の創出は工場誘致におおいに期待するところでしたが、ふたを開けたら誘致した工場はほとんど自動化され、無人操業だった、という例も多く、ますます投下資金を回収できない状況が起きています。
 そして今日の流れは『地方分権の推進』。目一杯借金だらけにさせておいて『財源も渡すからあとは自分でなんとかしろ』というわけですね。これで果たして地域格差は縮小の方向へ向かうのでしょうか。

6-2 第一次産業−農業
 日本の農業行政がコメ中心であったことは皆さんご存知のとおりです。その中心的役割を担った食管法が成立したのは戦争さなかの1942年、食料を安定的に国民に供給することが目的でしたが、戦後しばらくして食糧難の心配がなくなってからは、作れば高く買ってあげるという機能となって存続し、コメ増産にブレーキをかけることができませんでした。多様化する食生活とだぶつくコメ。生産者からの買取米価が消費者への販売米価を上回るといういわゆる『逆ザヤ現象』が長らく続きましたが、これはいかにも無理。行政は減反政策に転じます。その方法は現金。減反補助金をはじめとして、なにかをすると、あるいは止めると現金がもらえる、という手法がその後様々に用いられ定着しました。挙句の果てには、立派な農道を作るために土地収用代金という形で、現金をばら撒くということも行われました。
 自ら考え、創意工夫で付加価値の高い作物を作る、という方向ではなく、行政に言われたとおりすれば現金が入る。そして、こういう現金は身につきません。明日への投資には使われませんでした。皆さんも時々田舎道を車で走っていたりすると、突然本瓦で入母屋作りの豪邸がそこかしこに建っている光景に出くわしたりしませんか。
 これでは農業の競争力は失われ、農村社会は疲弊するに決まっています。

 こうして、我が国の食料自給率は戦後一貫して下がり続け、今日では40%そこそこ(カロリーベース)で低位安定するに至りました。
 農林水産省HPの「食料自給率の部屋」によると、先進国の食料自給率は次のようになっています(主要国のうち食料自給率が100%以下の国をピックアップしました)。

(資料)農林水産省「食料需給表」、FAO"Food Balance Sheets"を基に
 農林水産省で試算
 筆者がさらに5ヶ年移動平均線としてグラフ化

 昭和40年ころ、先進国中最悪の食料自給率だった英国は、その後自給率が上昇し続け、この40年ほどで日本と完全に逆転しました。筆者は中学の社会科授業で「英国は食糧自給も半分以下のとんでもない国だ」と教えられたことを記憶していますが、今の日本こそ「とんでもない国」になっています。
 ちなみに、このHPで紹介している先進国12ヶ国のうち、食料自給率40%という国は後にも先にも日本だけです。

 そんな農業の現実を見てきた若者たちが、都会へと流出していくのは当然でしょう。こうして田舎の過疎化と高齢化が進みました。そして、過疎化と高齢化が一定水準以上になると、経済効率の面から供給が減少する財・サービス(例えば次項の医療など)が増加します。
 地域格差といった表現では矮小化し過ぎるほどの地方の疲弊が人為的に作られた、と言えると思います。

6-3 観光
 行政がニーズを無視して独善的な現金ばら撒き政策を展開してきた例をここにも見ることができます。
 総合保養地域整備法(俗称「リゾート法」)は1987年に制定された法律で、民間活力を活用し、良好な自然環境を有する大規模な地域に対して、従来自然保護等のために設けられていた開発規制を緩和し、開発のための税制・財政優遇措置を講じる、というものでした。
 この法律、当初から疑問視するも多かったようですが、当時流行の『民活』の掛け声とバブルの喧騒の中で成立してしまったものでした。
 結果、この法律で潤ったのは、土地を売却した地主と開発業者・土建業者だけで、後に残ったのは、地方自治体の赤字と金融機関の破綻危機でした。この法律認定第1号であった宮崎県のシーガイヤが2001年に破綻し、その施設が建設費の1/10の値段で外資系企業に売却されたことを記憶している方も多いと思います。
 平成15年に作成された「総合保養地域の整備−リゾート法の今日的考察−」(国土交通省)によれば、この法律によって設置された全国42ヶ所のリゾートの利用者数、雇用者数は次のとおりとなっています。
  構想見通し 実績 達成率 備考
利用者数 37,685万人 16,131万人 42.8% 注1
雇用者数 216,732人 47,402人 21.9% 注2
 注1:構想見通しは開業10年後の見通し数、利用者数は平成13年度実績
 注2:構想見通しは開業10年後の見通し数、利用者数は平成14年度実績

 惨憺たる結果になっていることがお分かりいただけるでしょう。ちなみに、見通しを上回る利用者数実績を上げているのは、42ヶ所のうちわずかに3ヶ所だけでした。
 相当ずさんな構想であったことは間違いなく、企業投資ではトップのエコ贔屓でもない限り実現しませんが、これを推進した人たちは平気だったようです。そして、ここでも借金・後始末は全て民間と地方行政に押し付けられることになりました。

 まとめます。ニーズを無視した地方への現金ばら撒きが、地方の過疎化と膨大な借金を作り出しました。一極集中によって骨粗しょう症が進行していった国土に、甘いお菓子だけを与え続けたと言ってもいいと思います。そう言えば『ふるさと創生1億円』なんていうばら撒きもありましたよね。

7.医療格差
 医療格差という場合、
@平均的な医療を受領できる機会
A高度医療を受領できる機会
の2つに分けて考える必要があるでしょう。そして@は地域格差とかなり密接な関係があると思われます。
 そこでまず、人口10万人あたりの医師数というのを都道府県別に見てみますと、上位と下位は下表のようになりました。


 少し意外に感じる方もいると思います。第1位の東京と最下位の埼玉には、2倍強の開きがあるわけですが、両者は隣り合わせですよね。これは格差というよりも東京医療圏と考えた方がよいでしょう。第2位〜4位は『ふ〜ん』という感じですよね。
 ただし、都会と田舎という点では留意が必要かもしれません。試みに都道府県とそこにある大都市について医師数を併記してみると、下記のようになります。


 いずれも都市部の方が医師は多い。しかも人口密度を加味すれば、都市と田舎の医療機会の格差は相当大きいと言えるでしょう。
 しかしながら、職業格差の項で見たように、医師免許を得るために必要な投資額を考えると、医師も稼がなければならない。人口が密集しているところで働いた方が効率がよい、という状況は、市場原理に基づく自由競争を前提にするなら、当然の帰結と思えます。

 その次に、高度医療を受領できる機会、ということですが、これについては勘違いされている方が多いのであえて申しあげますと『命の沙汰も金次第』です。
 医療技術も日進月歩ですが、最先端の医療がすぐに保険医療に組み込まれるわけではありません。お金持ちなら受けられる高度医療を貧乏人は受けられない、というのは当たり前のことなのです。命の沙汰も金次第、金持ちも貧乏人も同等の質の医療が受けられる、というの幻想に過ぎません。

8.まとめ
 参議院選挙に間に合うように、ということで書きましたので、少し足りないところ、詰め切れていないところがあったと自分でも感じています。ご容赦ください。

 個人の能力・努力によって差がつく、ということを認めたうえで、それが社会全体として拡大し固定化することを容認するか否かが問われています。

 格差の拡大・固定化は社会不安を増大します。職業格差のように、厳然と存在するのに建前上は見え難い、というような格差は、社会不安上特に重大です。社会不安の兆候として、犯罪や心の病はすでに増加し始めていますが、このままいけばさらに増加し続けることでしょう。

 犯罪の増加に自前の出費で対応できるような人には痛くも痒くもないかもしれませんが、少しくらい小金を貯めて『自分は勝ち組』などと思っている皆さん、それは勘違いではないでしょうか。



            
(『おまけ』につづく)


この記事にお便りを。



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